【テレビ朝日】縦型ドラマが変えるテレビの未来
【ディンコの一言】
テレビ朝日のTikTok縦型ショートドラマ参入は、単なる若年層へのリーチ拡大を超え、既存のテレビ制作の常識を覆す可能性を秘めている。これはテレビ局が「放送」から「配信」へと軸足を移し、コンテンツのあり方を再定義する過渡期の象徴となるだろう。
テレビ朝日が「ごっこ倶楽部」とタッグを組み、TikTokで縦型ショートドラマアカウント「#5151」をスタートするというニュースは、一見するとテレビ局の新たな試みの一つに見えます。しかし、これは日本のテレビ業界が直面している構造的な変化、そしてその中でいかに生き残っていくかという大きな問いに対する、テレビ朝日なりの解の一つを示していると私は見ています。
従来のテレビ視聴が減少の一途をたどる中、特に若年層のメディア接触はスマートフォンとSNSに集中しています。総務省の調査(令和4年度情報通信メディアの利用時間に関する調査報告書)によると、10代のインターネット利用時間は平日で約4時間、休日で約5時間を超え、その多くがSNSや動画視聴に費やされています。一方で、リアルタイムでのテレビ視聴時間は年々減少傾向にあります。
このような背景から、テレビ局が新たな視聴者層を獲得するためには、彼らが慣れ親しんだプラットフォームとフォーマットでコンテンツを提供することが不可欠です。テレビ朝日がごっこ倶楽部というTikTokでのショートドラマ制作に実績のあるパートナーを選んだのは、単に縦型ドラマを作るだけでなく、TikTokのプラットフォーム特性や視聴者の嗜好を熟知したプロのノウハウを取り入れることで、より効果的なコンテンツを届けたいという強い狙いがあるからでしょう。これはテレビ局が単なる「送り手」ではなく、「プラットフォームとユーザーを理解したコンテンツプロバイダー」へと変化しようとする兆しでもあります。
「#5151」は、日常の「あるある」をテーマにしたショートドラマとのこと。これは、視聴者が共感しやすく、SNSでシェアしやすいという点で非常に理にかなっています。韓国ではすでに、PlaylistやSTUDIO LULULALAといった制作会社がWebドラマを専門に手掛け、YouTubeやNAVER TVなどで数千万回再生されるヒット作を連発しています。特に「A-TEEN」(Playlist制作)は、10代の学生生活を描き、SNSで爆発的な人気を博しました。これらの事例からわかるのは、尺の短いコンテンツでも、ターゲット層の心を掴むテーマとテンポの良い展開があれば、大きな反響を生み出せるということです。
日本国内でも、LINEマンガ発の縦型ショートドラマ「対決落語」がTikTokで成功を収めるなど、このフォーマットの可能性は確実に広がりを見せています。テレビ朝日がこの波に乗ることで、新たなクリエイターの発掘や、テレビ番組では表現しづらかったニッチなテーマの開拓にもつながるかもしれません。
このテレビ朝日の動きは、テレビ局がコンテンツ制作の主導権を一部手放し、より「開かれた」制作体制へと移行する試金石ともなり得ます。ごっこ倶楽部との協業は、外部のクリエイター集団やスタートアップとの連携を加速させるきっかけになるでしょう。将来的には、テレビ局が持つ資金力や企画力と、Web発のクリエイターが持つスピード感やプラットフォーム理解が融合し、これまでになかった形式のコンテンツが生まれる可能性も秘めています。
また、縦型ショートドラマは、視聴者の反応をダイレクトに得やすく、そこから次の企画や番組制作へのヒントを得ることも可能です。TikTokのデータ分析を通じて、どんなコンテンツが若者に響くのか、その「成功の方程式」を探る実験の場となるでしょう。これは、視聴率という旧来の指標に縛られず、より多様な視点からコンテンツの価値を測る新たな基準を生み出すことにもつながります。
「#5151」が単なる一過性のトレンドに終わるのか、それともテレビ業界の未来を切り開く一手となるのか、その動向に注目が集まります。テレビの未来は、もはやテレビの中だけにあるのではなく、多様なプラットフォームとクリエイターとの協業によって、その形を変えていくのかもしれません。
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