CATVが生きる道?「フェーズフリー」で地域の情報格差に切り込む挑戦

【ディンコの一言】

また東京都の補助金案件か…と思いきや、これは一味違う。コア等4社が採択されたプロジェクトは、防災行政無線の「聞こえない問題」とデジタルデバイド(情報格差)を同時に解決しようとする意欲作だ。特にCATV放送局を巻き込んだ実証実験は、地域メディアの新しい役割を再定義する可能性を秘めている。


「都市部の防災行政無線って、結局何言ってるかわからないよね…」

そんなモヤモヤを抱えたことがある人には朗報かもしれない。株式会社コア(本社:東京都世田谷区、代表取締役 社長執行役員:横山 浩二)を代表社とする4社が、東京都デジタルサービス局が実施する令和7年度東京データプラットフォーム ケーススタディ事業に「フェーズフリーの地域密着型情報配信プロジェクト」が採択され、共同実証事業に着手すると発表されたのだ。

この取り組みの背景には、都市部特有の深刻な課題がある。現在使われている防災行政無線は、都市部特有の「屋内では聞こえにくい」という問題があり、スマートフォンなどのデジタル手段には、デジタルデバイド(情報格差)やSNS上での誤情報・偽情報の拡散といったリスクが存在するというのが実情だ。確かに、高層マンションが立ち並ぶ世田谷区や調布市で、防災無線の音声が明瞭に聞こえる場所は限られている。

「フェーズフリー」という発想の転換

プロジェクトのキーワードは「日常時」と「非常時」という2つのフェーズをフリーにする「フェーズフリー」という概念だ。身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立つようにデザインしようという考え方として注目を集めているこのアプローチは、実は海外でも類似の動きが見られる。

アメリカでは、緊急警報システム(EAS)がテレビ・ラジオ放送に自動で割り込む仕組みが1990年代から稼働している。ドイツでは「Cell Broadcast」という技術で、特定エリアの全携帯電話に一斉に緊急情報を送信する仕組みが確立されている。しかし日本の場合、技術的な制約よりも「普段使いできない防災システム」の方が問題となっているケースが多い。

CATV局の新たな存在意義

今回の実証実験で興味深いのは、株式会社ジェイコム東京 世田谷局、調布局の協力のもと、都内3地域において実際の放送を2025年11月〜2026年1月にかけて展開予定で、2局合計の聴取可能世帯数は約28.5万世帯という規模感だ。

ちょっと待てよ、28.5万世帯って結構な数字じゃないか?

世田谷区の総世帯数が約50万世帯、調布市が約11万世帯だから、合計すると半分近くの世帯をカバーできる計算になる。これは単なる実証実験の域を超えて、本格的な社会インフラとしての可能性を示している。

実際、CATV業界は長らく「ネット配信に押されて厳しい」と言われ続けてきたが、地域密着性という強みを活かせる分野はまだまだある。特に災害時の情報伝達においては、全国一律の情報よりも「○○町の避難所が満員です」「××商店街の道路が冠水しています」といった超ローカル情報の方が住民には価値がある。

データ連携の妙味

プロジェクトの技術的な面白さは、参加企業の役割分担にも表れている。株式会社JX通信社が災害・事件・事故情報(FASTALERT)を提供し、株式会社エム・データがTVメタデータによる平時コンテンツ(TV番組情報)を提供するという構成だ。

JX通信社のFASTALERT は、SNSの投稿をAIで解析して災害情報をリアルタイムで検知するサービスとして、既に多くの報道機関や自治体で採用されている。一方、エム・データは民放キー局とも資本提携し、テレビ番組の放送実績を詳細にデータ化している企業だ。

この組み合わせが意味するのは、「普段はテレビ番組情報やローカルニュースを配信し、緊急時には自動的に災害情報に切り替わる」という、まさにフェーズフリーなシステムの構築である。

住民の立場から見れば、普段から見慣れた画面で地域情報を得ていて、いざという時にはそこに災害情報が表示される。これなら高齢者でも戸惑うことは少ないだろう。

今後の展望と課題

しかし、と言わせてもらおう。このプロジェクトが成功するかどうかは、技術的な完成度よりも「住民が実際に使ってくれるか」にかかっている。

対象地域の住民にアンケートを実施し、情報配信による行動の変化などを統計・分析することで、取り組みの効果を評価するとあるが、ここが最も重要なポイントだ。

実際、過去のTDPFケーススタディ事業を見ると、令和5年度では5件のプロジェクトが採択されたが、その後の継続的な展開について詳細な情報は限られている。技術的に優れたシステムでも、住民の生活に根付かなければ意味がない。

今回のプロジェクトが他の地域への横展開を視野に入れているなら、「世田谷・調布モデル」として全国のCATV局にとっての新しいビジネスモデルになる可能性もある。逆に言えば、地域密着型メディアの生き残り戦略としても注目されている。

2025年11月からの実証実験開始まで、あと4か月。果たして「フェーズフリー」というコンセプトが、日本の地域情報配信に新しい風を吹き込むことができるのか。その答えは、世田谷区と調布市の住民の反応が握っている。

 

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