博報堂が仕掛ける「注視率」革命で、テレビCM業界に激震
【ディンコの一言】
「視聴率なんて、もはや骨董品だ」――。20年前なら炎上必至のこの発言が、今や業界の常識になりつつある。博報堂が発表した「アテンションリーチ」は、単なる新機能ではない。これは、テレビ業界が長年握りしめてきた「数の論理」を根底から覆す、まさにパラダイムシフトの始まりだ。視聴率という「見ているかもしれない数」から、注視率という「実際に見ている質」への転換。この変化が意味するのは、広告主の投資効率が劇的に向上し、制作現場にも新たな評価軸が生まれることだろう。
「うちのCM、本当に効いてるの?」
広告主なら誰もが抱えるこの疑問に、博報堂が鋭いメスを入れた。2025年7月に発表されたAaaSプラットフォームの新機能は、テレビCMにおける「アテンションリーチ」の可視化だ。
従来の視聴率は、あくまで「その時間にテレビがついていた」という推測値でしかない。しかし注視率は違う。REVISIO株式会社の技術により、視聴者が実際に画面のどこを見ているかを計測し、CMに対する「本物の関心度」を数値化するのだ。
海外では既に始まっている「アテンション・エコノミー」
「でも、注視率って新しいコンセプトなの?」
いや、実は欧米では2019年頃から注目されている分野だ。アメリカのTVisionという企業は、2020年に約2,500万ドルの資金調達を実施。彼らのデータによると、従来の視聴率とアクティブな注視率には最大40%の乖離があることが判明している(TVision, 2021年レポート)。
イギリスのSystem1 Groupは、2022年の調査で「注視率が高いCMは、ブランド想起率が平均23%向上する」と発表した。つまり海外では、注視率=ROI直結という方程式が既に証明されつつあるのだ。
一方、日本のテレビ広告市場は2023年で約1兆8,393億円(電通「2023年 日本の広告費」)。この巨大市場で注視率データが本格活用されれば、広告効果の透明性は飛躍的に高まるはずだ。
博報堂の「AaaS」が狙う真の革命
ここで面白いのが、博報堂の戦略だ。単なるデータ提供ではなく、「AaaS(Advertising as a Service)」というビジネスモデル転換の一環として位置づけている点が秀逸である。
「予約型」から「運用型」への移行――これはデジタル広告で既に起こった変化だが、テレビでも同じ波が押し寄せている。注視率データがあれば、「このCM枠は注視率が低いから単価を下げよう」「あの番組は注視率が高いからプレミアム料金を設定しよう」という、まさに運用型の価格設定が可能になる。
実際、アメリカではNBCが2021年から注視率ベースの広告販売を試験導入し、従来比15-20%の単価向上を実現している。
制作現場に訪れる「創造性の試練」
「でも、数字ばかり追いかけて、面白いCMが作れるの?」
この疑問は正しい。注視率重視の風潮が行き過ぎれば、刺激的で安易な演出に走る危険性もある。
しかし別の見方をすれば、これは制作者にとって新たな挑戦でもある。「どうすれば最後まで見てもらえるか」「どの瞬間に視線を集中させるか」――こうした緻密な計算が求められるようになれば、むしろCMの表現力は進化するかもしれない。
実際、韓国のLG電子は2023年、注視率データを活用してCMの構成を最適化し、従来比30%の注視率向上を達成している。
「質の時代」への転換点
注視率の本格導入は、単なる測定技術の進歩ではない。これは「量から質へ」というメディア業界全体のパラダイムシフトの象徴なのだ。
テレビが生き残るためには、ただ「多くの人に届ける」だけでは不十分。「深く、確実に届ける」ことが求められる時代が来た。博報堂の今回の発表は、その転換点を明確に示している。
果たして日本のテレビ業界は、この変化を機会として捉えられるだろうか。それとも、従来の慣習に固執し続けるのか。答えは、各社の今後の戦略に委ねられている。
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