テレビCMプログラマティック取引解禁の衝撃

【ディンコの一言】

「ついにテレビもデジタル化の洗礼を受ける」—— 私が20年間この業界で見続けてきた"聖域"が、ついに破られた。Hakuhodo DY ONEと日本テレビの連携によるプログラマティックTV取引開始は、単なるツール追加ではない。これは日本の広告業界における構造的変革の始まり、いわば「黒船来航」レベルのインパクトを持つのだ。海外では既に当たり前となっているこの仕組みが、日本でようやく本格スタートする意味を、業界人は本当に理解しているだろうか?

テレビ枠のリアルタイム売買が現実に

「テレビCMって、明日から放映できるの?」— 現場の若手プランナーが漏らした素朴な疑問が、まさに業界の常識をひっくり返す変化を象徴している。

Hakuhodo DY ONEが提供する「WISE Ads」と日本テレビの「アドリーチマックス プラットフォーム」が連携し、2025年7月よりプログラマティック取引によるテレビCMの販売を開始。これまで数週間から1ヶ月の準備期間が当たり前だったテレビCMが、放送当日の直前まで発注やクリエイティブ変更が可能になる。

私の記憶を振り返ってみよう。2003年頃、初めてインターネット広告のリアルタイムバイイングを目の当たりにした時の衝撃。「え?今すぐバナーが出るの?」なんて、テレビ畑出身の先輩が目を丸くしていた光景が蘇る。その時と同じような変革が、今度はテレビの世界で起きているのだ。

海外に目を向けると、アメリカではすでにCTV視聴者数が全人口に対し66.9%を占め、2024年にはコードカッター(従来の有料ケーブルテレビ解約世帯)が有料ケーブルテレビ視聴者数を超えると予測されている。一方、日本では2024年の国内広告市場で「マスコミ4媒体広告費」「インターネット広告費」「プロモーションメディア広告費」がいずれも前年超えを達成しており、特にインターネット広告費は3兆6,517億円と前年比109.6%の成長を記録した。

つまり、アメリカが"テレビからデジタルへ"の流れなら、日本は"テレビもデジタルも"の併存戦略。しかし、その境界線がいよいよ溶け始めたということなのだ。

GRPからインプレッションへ — 指標革命の意味

「クライアントがGRPの説明を理解してくれなくて……」。この悩みも、もう過去のものになるかもしれない。

GRP等のテレビ独自の指標ではなく、インプレッション等のインターネット広告で用いられる指標でテレビCM広告の購入が可能になったからだ。これまでテレビ業界が大切に守ってきた「視聴率」という概念から、デジタル標準の「インプレッション」へのシフト。表面的には単なる指標変更に見えるが、実は広告業界の言語統一という壮大なプロジェクトなのである。

「WebのCPMと比較すると、テレビのコストは……」 「いえいえ、テレビはGRPで見るものですから」 まるで異なる言語を話しているような状況。今思えば、業界の縦割り構造そのものを象徴していた。

しかし今回の取り組みで、インプレッション、間接CV、ブランドリフトといった指標を用いた、デジタル広告と同等の粒度によるテレビ広告の効果可視化が可能になる。

この変化の真の意義は何か? それは「メディアプランニングの民主化」だ。これまでテレビとデジタルそれぞれの専門知識が必要だったメディア選定が、共通言語で議論できるようになる。若手プランナーでも、データさえあれば最適なメディアミックスを提案できる時代の到来である。

AaaSモデルが描く未来図

博報堂DYグループが提唱する「AaaS(Advertising as a Service)」— この概念こそが、今回の提携の本質を理解する鍵になる。

従来の「枠売り」から「効果売り」へのパラダイムシフト。私の経験でいえば、2010年頃からデジタル領域で始まったこの変化が、ついにテレビにも波及してきたということだ。当時、「運用型広告」という言葉すら一般的ではなかった。しかし今や、博報堂DYグループが推進する広告メディアビジネスの次世代型モデル「AaaS」と連携することで、テレビCMとインターネット広告を統合したよりリッチな分析機能を提供している。

実際の現場ではどうなるか想像してみよう: 朝一番の戦略会議で、「昨日のテレビCMの間接効果で検索が12%上昇、今日のWeb予算を15%増額しましょう」なんて議論が日常茶飯事になるかもしれない。

これまで別々に管理されていたテレビとデジタルが、リアルタイムで連携する。まさに、メディア戦略の「統合作戦本部」の誕生だ。

日本独自の進化と海外との違い

アメリカと日本の違いを整理すると興味深い構図が見えてくる。アメリカでは、2024年の世界の広告費成長率予測は4.6%、市場規模は7,528億米ドル(約111兆円)となっており、CTVへの移行が急激に進んでいる。

一方日本では、2024年、日本の総広告費は7兆6,730億円(前年比104.9%)となり、電通が調査を始めた1947年以降、過去最大となった。そして注目すべきは、マスコミ四媒体広告費が前年比100.9%の2兆3363億円と、3年ぶりにプラス成長したことだ。

つまり、アメリカが「置き換え」なら、日本は「統合」の道を選んでいる。これは日本のメディア消費の特徴—朝の情報番組を見ながらスマホでSNSをチェックするような「ながら視聴」文化—を反映している。


歴史は繰り返す。しかし、今度は準備ができている。日本の広告業界が、本格的な統合メディア時代に突入する瞬間を、私たちは目撃しているのだ。

この波に乗り遅れるか、それとも先駆者として新時代をリードするか。選択の時は、もうそこまで来ている。

 

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