【仙台放送】脳トレ技術が高齢者運転に光明をもたらす
【ディンコの一言】
「運転寿命の延伸」というキーワードに、地方テレビ局の独自技術が絡む今回の取り組み。これは単なる高齢者対策を超えて、超高齢社会におけるメディア企業の新たな存在価値を示す象徴的な事例だ。シンガポールの強制返納制度に対し、日本が選んだのは「能力向上」路線—この差異が日本の社会基盤に与える影響は計り知れない。
「もう車の運転は心配だなあ...でも地方では手放せないし」そんな高齢者家族の悩み、どこの県でも聞こえてくる切実な声ですよね。
今回、地方メディアの知られざる技術力が、この社会課題にアプローチする興味深い動きが見えてきました。株式会社仙台放送と一般財団法人京都府交通安全協会が2025年7月31日に発表した連携事業では、「運転技能向上トレーニングBTOC(ビートック)」を、一般財団法人京都府交通安全協会が実施する「ドラともプロジェクト研修会」に提供し、高齢者の社会的リスクの低減に着目した運転寿命延伸事業で活用すると発表されています。
脳科学とテレビ番組の融合が生んだ技術
この「BTOC」、実は地方テレビ局が開発したとは思えないほど本格的な技術なんです。東北大学加齢医学研究所・川島隆太教授による脳科学研究の成果と仙台放送が開発・放送している脳のトレーニング番組『川島隆太教授のテレビいきいき脳体操』の知見から開発されたもので、特許も取得済み。
川島教授によると、「ドライバーの事故は、脳科学の観点からすると、脳機能の低下、主に大脳の前頭前野の知覚、予測の力が落ちることが原因」であり、前頭前野のトレーニングが運転能力全般の向上につながるという理論的背景があります。
興味深いのは、2021年4月からAI機能を搭載し、個々のトレーニング状況をAIが解析し、プレイヤー毎に最適なトレーニングへ調整する機能を拡張している点。単なるゲームアプリではなく、個人最適化された医療レベルの介入システムに進化しているわけです。
海外との対照的なアプローチ
この取り組みが特に注目に値するのは、海外の高齢ドライバー対策と比較した時の日本独自性です。例えば、シンガポールでは65歳で一律に運転免許の再試験を義務付け、合格しなければ強制返納という厳格な制度を採用しています。一方、アメリカのAAA(アメリカ自動車協会)のサイトでは「長く安全に運転してもらう」という目的の一方で本人にも自分の限界に気づいてもらう仕組みとなっており、日本の今回の取り組みは「能力向上」に軸足を置く点で独特です。
日本の高齢化率は平成28年10月1日現在、65歳以上の人口は3,459万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%と約4人に1人という状況。2065年には38.4%に達すると予測される中、単純な免許返納だけでは地方の生活インフラが崩壊してしまう。だからこそ、運転能力そのものを向上させる日本のアプローチは、社会構造に即した合理的判断と言えるでしょう。
地方テレビ局の新たな可能性
しかし、この事例で最も興味深いのは、地方テレビ局である仙台放送が主導している点です。従来、テレビ局の事業といえば番組制作や広告収入が中心でしたが、ここでは大学との産学連携による技術開発、特許取得、AI搭載、そして他県の交通安全協会への技術提供まで—完全にテクノロジー企業の様相を呈しています。
2020年から保険会社や自治体向けにサービス提供を開始し、すでに複数の業界で社会実装が進んでいるとのこと。つまり、これは実験段階ではなく、すでにビジネスとして成立している事業なのです。
地方では人口減少と高齢化が同時進行する中、従来の広告モデルだけではテレビ局の持続可能性に限界があります。しかし、地域の課題解決に直結する技術開発と社会実装で新たな収益源を確保する—この仙台放送のモデルは、全国の地方メディアにとって一つの道筋を示しているのかもしれません。
今後の展望と可能性
今回の京都府との連携は、技術の地域横断的な展開という意味でも注目されます。東北で開発された技術が関西で活用される—これは地方同士の連携による課題解決の新しい形です。
さらに、この技術が持つ可能性はドライバー支援にとどまりません。認知機能や感情状態の向上が実証されているということは、介護予防、健康寿命延伸、さらには認知症予防といった分野への展開も見込めます。
地方テレビ局発の技術が、超高齢社会の課題解決に貢献し、同時に新たなビジネスモデルを創出する。そんな未来像が、この小さなニュースから透けて見えてくる—そう思いませんか?
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