【WOWOW】会員減でも諦めない、テレビ局が挑むEC百貨店の勝算
【ディンコの一言】
WOWOWが今秋開始する「WOWOW百貨店」は、減収減益の苦境を打開する起死回生の一手だ。しかし、これは単なる物販事業ではない。コンテンツ連動型ECという新しいメディアビジネスモデルの実証実験なのである。
「WOWOW百貨店」の衝撃—テレビ局が百貨店を名乗る時代
「もう単なるテレビ局じゃダメなのか?」
こんな疑問が頭をよぎった人も多いはずだ。WOWOWの2025年度第1四半期は減収減益となり、会員数は228万3,000件まで減少している現実を前に、同社が打ち出したのが「WOWOW百貨店」だった。
なぜ「百貨店」なのか?ここにメディア業界の未来を読み解く鍵が隠されている。
百貨店業界の市場規模は1991年の12兆円をピークに2024年は約6.3兆円と半減している一方で、EC市場は急速に拡大しており、2025年も引き続き成長が見込まれる状況だ。つまり、WOWOWは衰退業界の名前を借りながら、成長分野へ参入するという巧妙な戦略を仕掛けているのである。
コンテンツ連動ECの破壊力—海外事例から見る可能性
実は、メディア企業のEC参入は海外では珍しくない。米国のNetflixは番組関連グッズのEC販売で成功を収めており、韓国のメディア企業も同様の戦略で収益多様化を図っている。
日本国内を見ても、既存百貨店のEC化率は高島屋が4.2%、三越伊勢丹が3.8%と低迷しており、新規参入の余地は十分にある。
WOWOWの狙いは明確だ。「東方神起」「SUPER BEAVER」などの音楽コンテンツや、9月から開催される「ATEEZ 2025 WORLD TOUR」といった興行事業と連動した商品販売。これこそが既存の百貨店ECにはない差別化要因なのである。
「感性に従い、人生を楽しむ大人」という絶妙なターゲティング
「WOWOW百貨店」のストアコンセプトは「感性に従い、人生を楽しむ大人のための百貨店」とされている。この表現、一見すると抽象的に聞こえるが、実は非常に計算された戦略だ。
なぜなら、WOWOWの平均会員年齢は50代以上が中心であり、この世代は自分軸の夢中を持つ人の人生満足度が約2倍高いという同社の調査結果とも合致する。
つまり、単に商品を売るのではなく、「夢中」という体験を売る。これがWOWOWの目指すEC事業の本質なのだ。従来のテレビ広告モデルから、体験販売モデルへの大胆な転換である。
賭けの行方—成功への3つの条件
しかし、この戦略には大きなリスクも潜んでいる。
まず、コンテンツ制作費と在庫リスクの二重負担。番組費は前年同期比1億6,300万円減少したが、EC事業への初期投資がこれを上回る可能性がある。
次に、物流や顧客対応といったEC運営ノウハウの不足。メディア企業がいきなり小売業の複雑さに対応できるかは未知数だ。
そして最大の課題は、会員数減少トレンドの中でEC利用者をどう獲得するかである。
成功への条件は以下の3点に集約される:
- コンテンツとの完璧な連動: 番組内容と商品の自然な融合
- 会員限定特典の充実: 既存会員のロイヤルティ活用
- 体験価値の可視化: 単なる物販を超えた付加価値の提供
未来への賭け—メディア業界の新しい地平
WOWOWの挑戦は、日本のメディア業界にとって重要な実験でもある。成功すれば、他のテレビ局や配信サービスも追随し、メディア×ECという新しい市場が形成される可能性が高い。
失敗すれば...?それでも、現状維持では確実に沈む船から脱出を図る姿勢は評価に値する。
今秋のオープンを控えた「WOWOW百貨店」。その成否は、日本のメディア業界全体の未来を占う試金石となるだろう。果たして、テレビ局は本当に百貨店になれるのか—答えはもうすぐ明らかになる。
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