U-NEXTの野望は「音楽」で終わらない? 映像の巨人が描く、630万人獲得への壮大なるシナリオ
【ディンコのブログ】
どうも、業界の片隅で映像と活字の海を泳ぎ続けるディンコです。AV Watchから非常に興味深いニュースが飛び込んできました。
「U-NEXT、映像配信に“音楽サブスク”サービス追加へ。課金ユーザーは30年8月期630万人超目指す」
(出典: [AV Watch](https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/2055449.html))
国内映像配信の雄、U-NEXTが音楽サブスクリプション市場に本格参入するというのです。このニュースを聞いて、多くの業界関係者はこう思ったのではないでしょうか。「え、今から? あのSpotifyやApple Musicが君臨するレッドオーシャンに?」と。正直、私も最初はそう感じました。しかし、この一手は単なる事業拡大という言葉で片付けられるほど単純なものではなさそうです。これは、U-NEXTが描く壮大なコンテンツ帝国の、まさに序章に過ぎないのかもしれません。
今回は、このU-NEXTの挑戦の裏に隠された真の狙いと、日本のコンテンツプラットフォームが生き残るための未来戦略を、ディンコの視点で深掘りしていきましょう。
なぜ今、音楽なのか? U-NEXTが狙うは“解約させない”魔法
まず、冷静に考えてみましょう。U-NEXTが真正面からSpotifyと楽曲数で殴り合うつもりでしょうか? それはあまりにも無謀な戦略に見えます。では、真の目的はどこにあるのか。私は、その答えが「リテンション(顧客維持)」、つまり「いかにユーザーに解約させないか」という点にあると睨んでいます。
ビジネスの世界には「1:5の法則」という有名な経験則があります。新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる、というものです。特にサブスクリプションモデルにおいては、この法則が生命線となります。いかに魅力的なコンテンツで新規ユーザーを集めても、ザルのように抜けられてしまっては事業は成り立ちません。
U-NEXTの今回の戦略は、まさにこの点を突いています。「映画やドラマを観たい」というニーズに応えるだけでなく、「音楽も聴きたい」という日常的なニーズをも満たす。これにより、U-NEXTは単なる「時々使う動画サービス」から「生活に欠かせないエンタメ・プラットフォーム」へと昇華しようとしているのです。
「今月は観たいドラマがないから解約しようかな…」と思ったユーザーも、「でも、通勤中に聴く音楽プレイリストがあるしな…」と思い留まる。この“解約しない理由”を一つでも多く提供することこそが、映像と音楽のシナジーがもたらす最大の価値と言えるでしょう。これは、新規顧客獲得という「攻め」の戦略以上に、顧客基盤を固める「守り」の、極めて巧妙な一手なのです。
巨人Spotifyに挑むU-NEXTの“三種の神器”
とはいえ、ただサービスをバンドルするだけではユーザーは満足しません。既存の音楽サービスに対する優位性が必要です。U-NEXTがこの巨大市場に挑む上で、武器となりうる「三種の神器」を考えてみました。
1. 映像との究極連携(シナジーの深化)
これは誰もが期待するところでしょう。例えば、U-NEXTで観た映画のサウンドトラックをシームレスに聴ける、好きなアーティストのライブ映像からそのまま楽曲プレイリストに飛べる、といった体験は強力な武器になります。ドラマのあの名シーンで流れていた曲を、すぐに自分のライブラリに追加できる。この体験は、音楽単体のサービスでは提供し得ない価値でしょう。
2. 「質」へのこだわり(高音質とアーティスト還元)
楽曲数という「量」の競争から一歩引いて、「質」で勝負する道もあります。CD音源を超えるハイレゾ音源や空間オーディオの提供は、音にこだわるコアなファン層を惹きつけます。また、既存サービスが抱える「アーティストへの還元率が低い」という課題に対し、よりクリエイターフレンドリーなモデルを構築できれば、多くのアーティストやレーベルを味方につけることができるかもしれません。これは、日本の音楽文化全体を応援する姿勢にも繋がり、ブランドイメージを大きく向上させるでしょう。
3. 日本市場に最適化された“おもてなし”キュレーション
Spotifyの強みは、AIによる強力なレコメンデーション機能です。しかし、時にアルゴリズムが提示する「あなたへのおすすめ」に、どこか機械的な冷たさを感じることはありませんか? ここにU-NEXTの勝機があるかもしれません。日本のユーザーの繊細な感性に寄り添った、専門家や著名人による“顔の見える”プレイリスト、ニッチなジャンルを深く掘り下げる特集など、人間味あふれるキュレーションは大きな差別化要因となり得ます。まるで、行きつけのレコード屋の店主におすすめを尋ねるような、温かみのある音楽体験の提供です。
もちろん、主要音楽レーベルとの交渉は決して平坦な道ではないでしょう。しかし、これらの「神器」を磨き上げることで、U-NEXTは単なる後発サービスではなく、独自のポジションを築くことが可能になるはずです。
630万人の頂きへ。その先に待つ「第三の柱」とは
さて、U-NEXTが掲げた「2030年に630万人」という目標。これは国内市場だけで達成できる数字でしょうか。人口減少が進む日本において、これは非常に野心的な目標です。となると、いずれは海外展開も視野に入ってくるでしょう。U-NEXTが誇る豊富な日本のアニメやドラマは、海外でも強力なコンテンツとなり得ます。
しかし、私がさらに注目しているのは、その先です。顧客のLTV(生涯価値)を最大化するために、U-NEXTは映像、音楽に続く「第三の柱」を必ずや模索するはずです。
それは一体何か?
ヒントは、競合の動きにあります。Amazonは音楽サービスでオーディオブックを提供し、Netflixはゲーム開発に乗り出しました。エンタメ・プラットフォームの最終戦争は、もはや特定のジャンル内での競争ではありません。可処分時間、つまり「ユーザーの24時間をいかに奪い合うか」という総力戦に突入しているのです。
そう考えると、U-NEXTの次の一手として、ゲーム、オーディオブック、電子書籍(マンガ)、さらにはスポーツベッティングといった領域への進出も十分に考えられます。U-NEXTはすでにParaviとの統合でTBSやテレビ東京のコンテンツを取り込み、メディアコングロマリットとしての性格を強めています。この巨大な母体を活かせば、あらゆるエンタメを一つのアプリで完結させる「スーパーアプリ」構想すら見えてくるではありませんか。
今回の音楽サブスク参入は、その壮大な構想を実現するための、重要な布石なのです。
最後に問う。あなたの時間は、誰に捧げますか?
U-NEXTの挑戦は、単に一つの企業が事業を拡大するという話に留まりません。これは、日本のコンテンツプラットフォームが、グローバルな巨人たちと伍していくために、どのような戦略を描くべきかという一つの回答例を示しています。
私たちはこれから、さらに激化する「時間の奪い合い」の渦中に身を置くことになります。あなたのスマートフォンの中にあるアプリたちは、今日もあの手この手であなたの注意を引こうと必死です。
このコンテンツ戦国時代、最後に笑うのは誰なのか。そして、あなた自身の貴重な時間は、どのプラットフォームに捧げたいですか?
U-NEXTが奏で始めた新たな旋律が、市場にどんな化学反応を起こすのか。一人の業界ウォッチャーとして、その行方を固唾を飲んで見守りたいと思います。
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