【博報堂】岐路に立つ放送ビジネス:デジタル時代における新たな活路

【ディンコの一言】
博報堂の発表資料は、日本の放送業界が直面する厳しい現実と、そこから脱却するための具体的な方向性を提示しています。特に、テレビ広告費が回復傾向にあるものの、視聴率に依存しない価値創造が不可欠であるという指摘は本質的です。インターネット広告の急成長やグローバルOTTによるコンテンツ獲得競争が激化する中で、放送局が持つ「信頼性」という強みをいかにデジタル時代に最適化し、新たな収益源へと繋げるかが問われています。これは単にビジネスモデルの変革に留まらず、社会の情報インフラとしての放送の役割を再定義する大きな挑戦と言えるでしょう。


株式会社博報堂が、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」にて、「放送局ビジネスの現状と未来」と題した発表を行いました。この資料は、日本の放送局が直面する市場環境の変化と、その中でいかに新たなビジネスモデルを構築し、持続的な成長を実現していくかについての洞察を提供しています。

広告市場のデジタルシフトと放送局の変革期

近年、日本の広告市場ではインターネット広告が急速に成長し、2024年度にはテレビ広告の2倍の規模に達しています 。インターネット広告は、顧客の認知から購買、リピート、ファン化までの全領域を精緻に可視化・分析できる「フルファネルマーケティング」に対応していると市場に認識されています 。一方で、テレビ広告は「認知獲得」に強みを持つものの、顧客行動の全てを可視化・分析する点では課題を抱えています 。このような市場の変化を受け、放送局は視聴率に依存しない新たな価値創造とビジネス改革が急務となっています


信頼性の「武器化」とローカル局の可能性

博報堂の資料は、放送局が持つユニークな強みと、それを活かしたビジネス戦略の方向性を示しています。

  1. 放送局ビジネスの現状分析

    • 2024年度のテレビ広告費は3年ぶりに回復を見せ、パリ五輪などの大型イベントや配信領域、コンテンツビジネスの伸長が総売上の回復に貢献しています 。しかし、過去数年単位で見ると、放送事業および総収入は漸減傾向にあります 。TVerなどの配信領域は好調ですが、放送ビジネス全体を補完するにはさらなる成長が必要です

  2. マーケティングにおけるメディアの役割

    • インターネット広告の伸長により、顧客行動の全領域をカバーするマーケティングが主流となる中で、テレビは依然として「認知」の獲得に効果的なメディアであるとされています 。しかし、今後はテレビ広告が持つ本来の効果を可視化し、デジタル領域の活用によって顧客行動の詳細な可視化・分析を可能にすることで、マーケティング全領域での活用を促進すべきだと提言しています 。これには、「精緻な効果測定の開発」や「安心安全なデータ開発」が最も期待される分野とされています

  3. コンテンツビジネスの課題

    • グローバルな配信事業者は巨額の資金力でコンテンツ獲得を進め、コンテンツのマルチ活用や話題性創出で堅調なビジネスを展開しています 。これに対し、放送局は放送編成との両立やコンテンツ投資費用で及ばない状況にあります 。特に、Jリーグ放映権料の推移に見られるように、大型スポーツコンテンツの放映権は海外プラットフォームや通信事業者が取得するケースが増え、国民が無料で視聴できる機会が減少しています 。放送局が同様のコンテンツ権利料や展開費用を確保するためには、新たな資金調達手法の開発や業界全体での取り組みが不可欠です

  4. ローカル局のエリアビジネスの可能性

    • 地域課題を抱える地方において、ローカル局は地域に根差した情報や取材力を活かしたコンテンツ制作、地域や取引先との関係性構築により、エリアビジネスを強化する大きな可能性を秘めています 。島根県海士町の行政DXや沖縄テレビの「OKITIVE」の事例が紹介され、地域貢献とビジネスの成果創出を両立できることが示されています

  5. 放送局コンテンツが主役であるメディア環境への転換

    • デジタルコンテンツにおける偽・誤情報や詐欺広告が社会課題となる中で、放送局が提供する「安心安全で信頼されたコンテンツ」は、希少な存在であり、高いビジネス価値を持ちます 。しかし、TVerなどの配信サービスを含めても、放送局コンテンツの視聴総量は減少傾向にあります 。資料は、健全な情報空間を確保するため、テレビデバイスにおける放送局コンテンツ視聴の維持と、通信デバイス環境での視聴増加に向けたプラットフォーム構築や一層の強化の重要性を訴えています


日本の「信頼インフラ」としての放送の再構築

博報堂の資料から見えてくるのは、日本の放送が、単なる「コンテンツプロバイダー」から「信頼のインフラ」へとその役割を再定義すべき時を迎えているという視点です。視聴者の情報摂取が多様化し、フェイクニュースが社会問題化する中で、放送が長年培ってきた「信頼性」は、デジタル時代において最も強力な武器となります。

特に注目すべきは、ローカル局のエリアビジネスへの言及です。地域に密着した情報やコミュニティとの関係性は、グローバルOTTやメガプラットフォームには真似できない、放送局独自の強みです。これをDX(デジタルトランスフォーメーション)と組み合わせることで、地域経済の活性化に貢献しつつ、新たな収益源を確保するモデルが確立できる可能性を秘めています。

一方で、コンテンツ獲得競争における資金力の課題は深刻です。Jリーグ放映権の事例が示すように、大型コンテンツの「無料」提供が困難になる中で、いかにして公共的価値を維持しつつ、新たな資金調達の道を探るかが問われます。企業との協業、新たな広告モデルの導入、視聴者からの直接課金モデルの多様化など、多角的なアプローチが求められるでしょう。

今回の提言は、放送業界全体が「競争」と「協調」のバランスをとりながら、変化に対応していく必要性を示唆しています。放送局、広告主、そしてプラットフォーム事業者が連携し、データに基づいた精緻な効果測定と、ユーザーニーズに合致した安心安全なコンテンツ提供を通じて、日本のメディアが新たな価値を創造していく未来に期待が膨らみます。

 

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