【電通】テレビ広告の未来:データ活用で「信頼のメディア」を再構築する

【ディンコの一言】
電通の提言は、テレビが「放送」から「放送と配信がミックスされた」サービスへと進化する中で、その広告価値をいかに高めるかという、業界の喫緊の課題に深く切り込んでいます。特に「誰でも無料で見られる」という放送の公共的価値と、「信頼性・安心」という放送コンテンツの強みを強調し、これらをデータ活用によってマーケティング全般に活かすことの重要性を指摘しています。OTTやショート動画の台頭で視聴行動が多様化する中、テレビがその特性を活かした新たな広告取引モデルを構築できるかどうかが、日本の情報空間の健全性を守る上でも極めて重要になるでしょう。


株式会社電通のグロースオフィサー(メディアビジネスイノベーション担当)須賀久彌氏が、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」にて、「これからのテレビメディアの価値向上、及びデータの利活用について」と題した発表を行いました。この資料は、テレビを取り巻く環境の変化と、その中でテレビ広告が持つ本質的な価値を再定義し、データ活用によって新たな成長を模索する電通の戦略的視点を示しています。

テレビサービスの変化と広告価値の再構築

電通は、テレビサービスが「放送」単体から「放送と配信がミックスされた」サービスへと移行している現状を前提としています。このような環境変化の中で、テレビ広告の価値を維持・向上させるためには、広告放送の持つ「多くの国民が無料でコンテンツを見られる環境」という公共的価値と、それに伴う「信頼性・安心」という強みを再認識することが重要だと指摘しています。特に、偽・誤情報が氾濫する現代において、放送の信頼性は「情報空間の健全性を支える一媒体」として不可欠であり、テレビCMやTVerなどの配信広告も「全て事前考査して放送」されることで、その信頼性が担保されていると強調しています


「リーチ」と「信頼」を可視化するデータ戦略

電通の発表資料は、テレビ広告の価値を向上させるための具体的なアプローチを提示しており、特に以下の点が注目されます。

  1. テレビ広告の価値:無料性と信頼性

    • 日本のテレビ広告費は概ね横ばいで推移していますが、動画広告の本格化に伴い、電波メディア全体の広告費シェアは低下傾向にあります。しかし、テレビは依然として「多くの国民が無料でコンテンツを見られる環境」を提供しており、これは「情報空間の健全性、民主主義を支える」上で重要な価値であると位置づけています。また、「番組内容だけでなく、広告についても全て事前考査して放送」されるため、高い信頼性と安心感が担保されている点を強調しています

  2. オンデマンド以外の価値:習慣視聴とながら視聴

    • 配信サービスではドラマやバラエティ、アニメなどのエンターテインメント系コンテンツが中心ですが, 従来のテレビ放送には「習慣視聴」や「ながら視聴」によるニュースや情報番組の視聴価値があります。電通は、FAST(Free Ad-supported Streaming TV)やショート動画といった新しい視聴形態が、このような視聴行動に対応する配信向けUXとして期待されると述べています。また、「各系列のニュースサイトやLCB(Local Contents Bank)の取り組みなどで、『集約』や『メタ付与』などが進んでいること」に注目しています

  3. データ利活用の重要性:広告効果の「見える化」

    • デジタル広告ではDCR(Data Clean Room)などを活用した多様なデータ利活用が進む中で、放送においてもデータ利活用を議論し、推進することが広告価値の維持・伸張に不可欠だと強調しています。電通が提供する「STADIA 360」のようなマーケティング基盤は、テレビの実視聴データに加え、購買データ、位置情報、アンケートデータなど40社以上のデータホルダーのデータを連携させることで、テレビCMやConnectedTV上の広告効果を多様なマーケティングKPI(態度変容、検索、サイト来訪、購買など)で検証することを可能にしています

    • データ活用の要件としては、「クラスタで分類しても分析に十分な量があること」と「業界共通で利用できること」の2点を挙げています。また、NHKと民放ではビジネスモデルが異なるため、データ活用のルールについても「切り分けて議論しても良いのではないか」と提言しています

テレビの「ハイブリッド広告」戦略

電通の提言が示すのは、テレビが単なる放送メディアから脱却し、「放送と配信が融合したハイブリッドメディア」へと進化する姿です。その中核には、テレビが持つ「リーチ力」「信頼性」「安心感」という、インターネットメディアにはない独自の価値があります。これをデータ活用によって「可視化」し、広告主にとってより使いやすいものにしていくことが、今後の成長戦略の鍵となるでしょう。

特に「アウトサイドファネル」という概念は興味深いポイントです。これは、消費者が「世の中に広まった情報で考える手間を省く」ために購買行動に至るという、テレビの「周辺認知」や「同調購買」効果を示唆しています。この独特な価値をデータで測定し、マーケティングROI(投資対効果)を明確にすることで、デジタルシフトした広告予算を再びテレビへと呼び込む可能性を秘めています。

また、電通は「準備に残された時間はあまりない」と述べ、テレビ画面上でOTTの視聴時間が放送を上回る前にデータ利活用の議論を加速させる必要性を強調しています。これは、日本の放送業界が直面する時間的制約を強く意識したものであり、業界全体での迅速な意思決定と協調体制の構築が求められます。

NHKと民放、それぞれ異なるビジネスモデルを持つ両者が、互いの強みを打ち消し合うことなく、データ活用のルールや連携のあり方を模索していくことは、日本のテレビメディア全体のエコシステムを強化し、健全な情報空間を維持する上で不可欠です。電通の提言は、テレビがデジタル時代において新たな価値を創造し、情報インフラとしての役割を再構築するための羅針盤となるでしょう。

 

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